連載コラム#02 【ゲストハウスに泊まる準備体操】-百科事典な話-

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これから初めて・あるいは私のように久々にゲストハウスを訪れるかもしれない人に向けて、「ゲストハウスの面白さって何だっけ?」を掘り起こすため、日本各地200軒以上のゲストハウスに宿泊したFootPrints・だりの記憶の中に眠る好きな思い出話を呼び覚まして綴っていく連載コラム。

2話目となる今回は、1話目のラストに布石のようにちらっと書いていた”ゲストハウスでは日常で出会わないタイプの人としばしば出会うこと”について言及したい。題して「百科事典な話」だ。

ゲストハウスでは日常で出会わない人たちと出会える

ゲストハウスは言うなれば百科事典だ。「ゲストハウスとは -特徴と傾向-」でも綴っているが、これがゲストハウスを語るうえで欠かせない最大の特徴ではないだろうか。

国籍・年齢・職業のさまざまな人々が「泊まる」と「関わる」を日々繰り返すゲストハウス。その場所で「あ(A)」から「ん(Z)」までページをめくるように、日常で出会う枠を超えた多種多様な価値観に触れることで、自分の世界観が広がる。日常生活に戻り、辞典を引くようにふと「こういう時、あの人ならどうするだろう?」と思い浮かぶ顔が増え、新たな答えにたどり着けるようになる。

実は最初、私はこの現象を辞書みたいだと思った。だけど次第に「辞書のように白黒ではなく、もっと色鮮やかな…そうだ、これって百科事典だ」と思い直した。単色だった自分の世界に、ゲストハウスで出会った人たちが、それぞれの暮らしの選択肢を通じて色を分けてくれている感覚だ。

私が各地のゲストハウスをめぐりはじめた20代半ばの頃、東京のゲストハウスで助産師を目指す同い年の女の子と出会った。当時、誰だって就職活動は都心の大手企業が第一希望だろうと思い込んでいた私にとって、なるべく自然体で出産することを推奨する個人経営の小さな助産院に弟子入りする彼女の姿は、たくましく輝いて見えた。そうか、こういう選択肢もあるんだと。

また、長野のゲストハウスで開催されたイベントで、各地から参加者が集まったことがあった。オーナーさんから「あと1名いらっしゃる予定なんですけど、ヒッチハイクの旅の途中でこちらに向かっているので夕方前に着きそうだと連絡がありました」と説明された時、イベントの参加でそんな移動手段あり!?と予想外な展開に驚き、思わずどっと笑った。実際到着したその男性は私服を来た傘地蔵といった出立ち。確実性より偶然性のある旅を楽しむ自由な姿に、そういう選択肢もいいかもと思わされた。

他にも、オルゴールの調律師をしている男性や、AV監督をしている女性、就職希望先の面接を明日に控えた大学生、長年勤めた会社を辞めて転職活動前にあちこちめぐる人、前職と畑違いなゲストハウスの開業に至った宿運営者など、きっと誰も私の日常ではなかなか出会わなかった人たちだ。

最高の褒め言葉として言わせていただくが、ゲストハウスって変な人の集まりだな。前職の時は土日祝にゲストハウスに宿泊していたが、フリーランスのライターとして独立してからは平日に宿泊することが多い。だって平日の方がもっと変な人がいて面白いんだもの。

ちなみに、FootPrintsのコンセプトを「ふれる、暮らしの選択肢。」としたのも “さまざまな価値観に触れ、心の針が振れ動く瞬間を” という思いからなのです。(つづく)