連載コラム#01 【ゲストハウスに泊まる準備体操】-不思議な再会の話-
もう2年近くゲストハウスに泊まっていない。
ゲストハウス情報を発信するサイトを運営しておきながら、なんてことだろう。
世界では2020年から新型コロナウイルスが猛威を振るい、プライベートでは2021年末から産休・育休に入った。小さな子どもを連れて県外の宿に泊まるにはなかなかハードルがあり、オンライン宿泊に参加したりカフェバーに訪れたり、宿のオーナー陣と連絡を取り合うことはあっても「ゲストハウスに泊まる」という原点的なアクションがすっかりご無沙汰になってしまっている。
そこで、これから初めて・あるいは私のように久々にゲストハウスを訪れるかもしれない人に向けて、「ゲストハウスの面白さって何だっけ?」を届けるため、記憶の中に眠る好きな思い出話を掘り起こして綴りたいと思う。つまり、タイトルコール『ゲストハウスに泊まる準備体操』となるコラムだ。
こういう時、普通ならゲストハウスに最初に泊まった話なんかを書き出しに用いるのかもしれない。けれど、それはHostelworldさんとのコラボ企画の連載の一つですでに書いているし、他のメディアで取材された時やイベントなんかでも話し尽くしていて、私のなかで手垢感がある。
というわけで、最初は「不思議な再会の話」でもしよう。なんだか懐かしのテレビ番組「ライオンのごきげんよう」のサイコロの目みたいな響きでいい。 なんて言うと、世代がバレるかもしれないが。
ゲストハウスで出会った人と偶然再会する
ゲストハウスに日常的に宿泊する日本人の割合は、旅館やホテルに比べて圧倒的に少ない。2010年から2020年にかけて、ゲストハウスの軒数は約200〜300軒から約2500軒に増加。10倍ほどに増えたことで認知は広がった。しかし、旅先の宿の選択肢としてゲストハウスが当たり前にある日本人は多くない。
つまり、ゲストハウスのヘビーユーザーは少数派。ゲストハウスと一口に言っても、大型ビルをモダンにリノベーションした宿や古民家を改装した“おばあちゃんち”のような宿もあれば、缶ビール片手に恋バナでもしたくなる宿やコーヒーカップを両手で包んで好きな映画の話をしたくなる宿もある。少数派の中でもそういった好みに分かれると、趣味趣向が似通った人と偶然また別の場所で再会することがあるのだ。
私は京都のゲストハウスで出会った人と名古屋のゲストハウスで再会したことがある。宿泊翌朝の歯磨き中、鏡に映る自分の背後をどこかで見かけた顔が眠そうな目をこすりながら通りかかり、思わず吹き出した。他にも、東京のゲストハウスで会った人と、約束もなしに2年後の全く同じ日に同じゲストハウスで偶然再会したことだってある。
さらには、長野のゲストハウスで会った人が、職場に向かおうと大阪で信号待ちをしていた私の目の前を自転車で横切り「わ!だりちゃんだ!!じゃあね〜!!」と颯爽と走り去っていった時なんかは、当たりくじを引いたようなホクホクとした気分になり、得も言われぬ元気をもらった。
こうやって場面だけ切り取ってみると恋でもはじまりそうなドラマチックな展開にも思えるが、まあ何もはじまらない。だけど、とっても嬉しい気持ちになる。例えるなら、大型トラックの運転手さんが同僚と偶然すれ違った時、嬉しそうに手を挙げて合図を送り合っている瞬間に似ているのかな。
宿泊機能があることで移動距離の制限がなくなるため、ゲストハウスでは日常で出会わないタイプの人と出会うことができる。そして、こういった不思議な再会が起こりやすい環境にある。
世界を広く、世間を狭く。
そんな言葉がよく似合うのがゲストハウスの面白いところの一つだ。(つづく)